狩り川の旅


奈良県吉野郡十津川村を流れる甘野川は、かつて狩り川がよく行われた。
 昭和16年ごろ、それまで小さい狩り川ならば何度も経験してきた私は ここで初めて大狩り川を体験した。
川のなかにたくさんの材木を放り込むこと一遇間、雨天の日もあったが 毎日、材木を流しながら川下に向かって進んでいく。
地元の人たちは慣れた もので、一本丸太に乗ってすいすいと川下に向かうが、私のように乗れない 者は山を越えて遠回りしなくてはならない。
熟練すれば熟練するほど仕事が 楽になる、このときつくづくとこう感じた。
日が暮れると仮宿に泊まり翌日 はまた材木を流すこの旅はけっこう楽しいものである。
さて、われわれが材木と流している間に目的地に先回りした先発隊が、川いっ ばいに材木を三脚に組む。
これを三機(さんき)といい、この上に石の重りを のせて固定する。
こうして流れくる材木を横にしてもたせかけ、ひと並べ するとつぎに岸に向かって先を向け、引っ張り寄せる。
そのうちわれわれ 後続の者が着き、みんな合わせての陸揚げ作業が始まる。

筏の準備

 

筏の組み方はこの後に詳述するとし、ここでは組む前の段取りについてふれる。
材木の太さ、長さ、曲がりなどによって区分したうえで筏を組むわけだが、 あらかじめその日を決めて一斉に組む。
その日まで材木は水際に積み上げておき、 当日に放り込むのが理想であるが、その間には雨天もあり大水も当然、予想して おかなければならない。
そこで大水に備えて川岸の高いところに盤台をつくり、そこに材木を積み上げる。
盤台からは仮修羅、この場合、簡単な置き加定羅を数枚かける。
大水で流され ることを想定し、独立式の修羅を3、4枚つくっておく。
この修羅の一本、一本 には筏を組むときの鐶を打ち込みヮイヤーロ−プでつなぎ、大水のときにはその 部分だけが流れても数珠つなぎで岸に打ち上げられるようにしておく。
冬季はそれほどの大水は出ないが、流域の大きな川は、夏中に多いときで5、6回も 修羅が流されることがある。
いったん流されると水の引くまでに4、5日、それを 待って改めて修羅を掛け替える。